今年のGWは10連休。相棒と知り合いのOさんが連絡を取り合い、黒部横断に行くことになった。
私が黒部横断を知ったのは、昨年のこと。OさんとA子さん達(計4人)パーティが、計画(五竜-東谷尾根ー黒部川ー雲切新道-北方稜線ー剱ー早月尾根)を立てていたからだ。結局、仕事の都合でOさんだけ行けなかった。
そこで、今年こそはとなったようだ。3年越しの夢だそうで、責任重大である。自分にそんな体力あるのかなと不安になり迷ったが、誘っていただいたチャンスを無駄にしないで一生懸命頑張ろうと思った。
前日、相棒、Oさんと合流。A子さんは発熱のため、急遽不参加となった。装備も再考し、3,4人テント1(相棒)、60メートルロープ1(Oさん)となった。私は、自分の荷物とわずかな共同食料だけとなり、ハンデをもらう。少し気がらくになる。
でも、Oさんの希望は、鹿島槍ー牛首尾根ー黒部川ーガンドウ尾根-北方稜線ー八ッ峰-剱-早月尾根である。(五竜からだとゴンドラが使えるのにな)とりあえず、どういうルートでも黒部川を横断すればいいのだが、ガンドウ尾根はノーマルルートではないし、いったん北方稜線に出てからまた下って、八ツ峰を登るのは大変だなと感じていた。
【5月1日】 小雨
大谷原EL1080(8:00)ー赤岩尾根ー高千穂平(12:05)ー冷池山荘EL2420(15:00)
登山道で冷池まで。天気が悪いので、テントは2張だけだった。カッパを着ると蒸れて暑いし、景色が見えないのと久しぶりの重荷で疲れた。
【5月2日】 吹雪のち曇り
冷池山荘(5:00)ー鹿島槍南峰(7:23)ー牛首山(9:44)ー牛首尾根EL1089ビバーク(18:50)
この日は予想より天気が悪く、鹿島槍に向かうが吹雪いていて、しかも向かい風で大変だった。
鹿島槍から牛首尾根に下るのも、ホワイトアウトで尾根がわからず、GPSを見ながら数回登り返しながら尾根を確認した。向かい風で目も開けられないし、体も持って行かれるし、一人だったら絶対引き返していたと思う。
なんとか尾根に辿り着き高度を下げていくと、風も穏やかになり視界もよくなってきた。牛首山まで来ると、目の前には立山ー剱ー北方稜線が大迫力で現れて、感動する。とても広い尾根で、ブナも生えていて、青森の山(尾根)みたいだなあと思いながら下り続ける。忠実に尾根をどんどん下りるが、数回迷い、登り返したりトラバースしたりした。だんだん灌木帯になり弱点をついて下りていく。藪こぎで体力奪われる。終盤は懸垂を繰り返して下りた。
昔の関電の作業資材置き場まできてほっとしたが、そこからまた長かった。見下ろすと、もう、関電の鉄塔や黒部川を渡る橋も見えるのに、なかなか辿りつけず、暗くなってタイムアウト。私が遅くて足手まといとなる。
少しだけ残っている雪渓をどかしてテントを張り、水を作った。とっても長くて疲れた1日だった。
予定では、黒部川で泊まり、水も汲んでらくできるはずだった。でも、3人だからか、不安ではなかった。明日、明るくなってから行動したら、必ず黒部川に下りれると思った。
【5月3日】 快晴
EL1089(6:52)ーS字峡(7:29)ー黒部川渡渉ーガンドウ尾根(8:20)ーJP EL2302(18:15)
仕切り直しで、尾根を下る。無事にS字峡に下りれてほっとするも、次なる試練は渡渉。枝沢は狭いが流れが急。本流は広いが穏やか。どっちを行くか相談。真っ向勝負の本流を渡渉することにする。Oさんと相棒、登山靴でそのままガシガシ渡っていった。私は濡らしたくないので、タイツ、登山靴を脱いだ。澄んでいるので浅く見えたが、入ってみると意外と深くて、腰まで濡れた。きりきりと冷たい水を漕ぎながら、「あー、黒部川を渡っている~~~。」と実感する。
ガンドウ尾根枝稜の登り出しは急で、2ピッチに時間を要した。岩に土が薄くのっかる浮き石だらけの斜面をOさんリード。水平歩道に出てから、尾根にのる。そして、藪、藪、藪。急な上、丈夫なシャクナゲが行く手を阻む。昨日も今日も藪こぎ地獄で、体力奪われる。「つらい」という言葉が何度も口から出てしまう。尾根が痩せて、小ピークとギャップが連続する。雪が不安定な斜面はロープを出して、トラバースした。やっとジャンクションピークに辿り着いたら、テン場跡があった。連休前半に来たパーティだろう。ありがたかった。
【5月4日】 快晴
JP EL2302(4:50)ー仙人山ー池平山ー北方稜線ー三ノ窓EL2650(15:40)
振り返ると鹿島槍が佇んでいる。3日前にあそこにいたなんて、遠い昔のことのようだとみんなで笑う。牛首尾根がはっきりと見えて、あんなにわかりやすい尾根なのに、吹雪いてどこをどう下りてきたのか実感ないままだった。
JPからは雪稜で、藪こぎ地獄から解放される。リッジを慎重に歩き、急登を越え、登り返しを繰り返すと、左手には八ツ峰、チンネが広がり、素晴らしい眺めだった。今日はチンネの右側の三ノ窓まで。仙人ヒュッテも池の平小屋も屋根まで雪に埋もれていた。
池平山まで来ると、赤谷尾根から来た北方稜線に登る人がぞろぞろとでてきて、静かだった冒険も終わりに近づいてきているなあと感じた。
池ノ谷からこちら側の北方稜線は初めてだったのでちょっと緊張した。小窓への急峻な雪面の下降は懸垂を繰り返し、バックステップで慎重に下りた。登り返しも急に見えたが、先行者がステップを切ってくれていたので、階段になっていて思ったより時間がかからなかった。最後の下りのトラバースも油断せずに慎重に下りた。
今日は、チンネをずっと見て登ってきたが、近づくにつれて形が変わっておもしろかった。また、剱尾根の迫力にも圧倒させられた。
今日は久々、16時前にテン場につけてゆっくりできたので、うれしかった。前にチンネに来たときに三ノ窓に泊まってみたいと思ったので、実現できてよかった。八ツ峰登攀はなしとなり、ほっとする。テントは5張ほどあり、にぎやかだった。日差しがまだあったので、のんびりいろんなものをテントの上で乾かした。
【5月5日】 快晴
三ノ窓EL2650(4:50)ー剱岳(6:40)ー早月尾根ー馬場島(12:55)
今日も快晴の予報。いよいよ剱本峰へ。朝の雪面がガチガチな時に池ノ谷ガリーを登る。昨日は、気温が上がって雪が腐って神経を使った。案の定、ガリーは安定して登りやすかった。長次郎の頭からこちら側は来たことがあるので、本峰までそんなに時間はかからないだろうと思った。八ツ峰を何度も振り返って見た。今度来るときは登れますように。
相棒とOさん、先に山頂到着して待ってくれていた。握手とハグで迎えてくれた。二人に感謝。ここまでこれたのも二人のお陰。ありがとう。遠くの鹿島槍をバックに写真を撮る。祠も屋根だけ見えていた。
早月尾根では、獅子頭手前のルンゼで懸垂した。獅子頭のトラバースも気を遣った。正月に行けなかった核心のところを確認できたので、収穫だった。
馬場島へ着くと、「試練と憧れ」で最後の写真。やっと冒険が終わった。Oさんの夢を無事に叶えることができた。
黒部横断は、登攀要素はないが、体力、ルーファイ力、総合力が試されるルートだと思う。私にとっては、一生に一度行けるか行けないかの貴重な山行だった。一緒に行ってくれた二人に心から感謝します。
馬場島からタクシーで富山駅まで。富山駅(北陸新幹線)-長野駅(しなの)-松本駅(大糸線)-穂高駅Pにデポしていた車で、大谷原の車を回収した。大谷原に着いたのは20時近く。それから薬師の湯に入り、また松本に戻り、居酒屋で打ち上げしたら、24時を回っていた。最後までなんともタフな1日だった。
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