【8.12】曇り
涸沢は、上半分は残雪あり。テントを張るスペースを探すのに時間がかかる。
【8.13】雨
一日中、テントに籠もる。あまりにも暇なので6ヶ月前の新聞や資料を隅々まで読みあさる。その中の遠藤甲太氏の文章に目が留まる。
「女性の場合も同じかどうかは知らないが、登山にのめり込んだ男は特定の山、あるいはルートに恋をするものだ。これは、比喩では済まされぬ切実さで胸に迫りくる慕情であって、むろん年若い者ほどピュアな憧れと、ほとんど性欲と不可分な熱い恋い(おもい)に悶々とするのである。」
遠藤さん・・・女性も同じです・・・と、読みながらつっこむ。
相棒は無理して休みを1日早めたのに、雨でテンションが低い。私はこれ幸いにと、普段の睡眠不足を解消する。
このまま雨が長引いたら・・・と、昨年のことを思い出す。昨年も滝谷ドーム中央稜を狙ったが、豪雨で天気が回復する見込みがないので取りつきを調べるに留まり、小川山へ逃げた。きっと私達にはまだ早い、もっと上手になってから来いという意味だったんだろうと解釈した。
でも、1年も待ったのだから、今年は行きたい。明日、天気が回復することを願い、眠りにつく。
【8.14】小雨
テントの中にいるのも、もうあきあきしたので、北穂東稜でも登ろうということになった。初めてだったが、案外早く小屋へ着いた。
久しぶりの北穂小屋は、トイレ・乾燥室が新しくなり、とても快適だった。
明日はやっと晴れの予報。いよいよだ。
【8.15】晴れ
縦走路を離れ、慎重にガレ場を下り、踏み跡をたどる。懸垂をして、登り返し、取り付きへ着く。
2パーティがいた。最初のパーティのセカンドが登り始めるところだった。チムニーに入り込んでしまい、とても時間がかかった。滝谷の取り付きは、思ったより開けていて、厳しい感じはしない。でも、陽が当たらないため、とても寒い。1時間弱も待ったため、体が震えだし、手足も冷たい。夏とは思えないくらい寒かった。
【1P目】 凹角からチムニー
相棒は先行パーティが手こずっていたチムニーも、すいすい登ってしまう。私は登れるだろうかと思いながらもスタートする。所々、岩がまだ濡れていて気をつけながら足を置く。岩肌が冷たく、だんだんと手が悴んでくる。チムニーは体を入れすぎずに登ったら、スムーズにいけた。
【2P目】 リッジからカンテ
あまり記憶がない。記憶がないということは、それほど難しくなかったということか。ドームの頭の影が滝谷に映る。本当に滝谷なんだなと実感する。槍が静かに見守ってくれていた。最後のホールドの乏しいスラブも落ち着いて登ることができた。
【3P目】 歩き
コンテで登る。
【4P目】 右フェイスから左チムニーへ
先行パーティは上部右へ行くが難しく、左へトラバースする。それでもだめで、また右を登り、時間がかかっていた。迷走したコースどりになったため、カムやヌンチャクが回収できなくなった。相棒がそれを回収してあげながら登る。左の上部は、大岩になっていて、そこを乗り上げた。
【5P目】 硬く快適な凹角を直上 左を超える
上部右はホールドがなく難しそうに見えたため、左に回り込んで乗り上げた。
ドームの頭に着いたら、縦走路の向こうに前穂、奥穂が見えた。今までとは違う景色だ。夢にまでみた滝谷ドームも終わってみれば、あっという間だった。1年越しの宿題が片付いてさっぱりした。
【縦走路まで】
踏み跡を下降。 ガレている。後続パーティ(追い抜いた先行パーティ)が落石をし、急いでよける。けっこう大きな石で、危なかった。滝谷へ大きな音が響き渡り、縦走路を歩いていた登山者も滝谷をのぞき込む。とにかく他人に怪我をさせないように、落石だけは起こさないよう気をつけなければと思う。
【8.16】快晴
一番いい天気の日に下山なんて・・・。「(穂高と別れるのは)寂しいなあ。。。」モルゲンロートの穂高を背に、相棒がぽつり言う。
私たちは滝谷の門をたたいたばかり。今度はいつ来れるだろうか。それまでまた、努力しよう。滝谷に恥じないように・・・。
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