いつの時期だか覚えてはいないが、朝日連峰の八久和に行くぞとo谷さんに言われた。沢登りを始めてまだまだ小川屋の自分は朝日、飯豊の沢と聞いただけで身構えてしまう。しかしそれ以上に久しぶりのたがじょのみんなに会えるのが楽しみだった。
今回は前泊で大井沢キャンプ場に泊まった。福島の山岳会からnさんとsさんからテントを準備して頂いて快適に休む事ができた。福島のnさん、sさんと初顔合わせと久しぶりの再会もあり、もう寝ようと言っても宴会は盛り上がり深夜1時まで皆起きていた。
翌朝はやはり睡眠不足で朝飯も早々に出発、福島の釣り師sさんにバカ平まで送って頂く。
6時登山道を登り始め、焼峰、天狗山頂からフシ沢への下降地点鞍部まで5時間程かかりフシ沢を2時間程下降して出谷川出合。出谷川遡行開始。
今日はコマス滝、露滝を越えて泊まりとなる。
前回偵察ずみのnさんから助言を頂きコマス滝を巻道から覗いてみる。コマス滝は高さはないが水量が多く勢いがあり段になっていて釜を持つ。その釜に向かう水流はうねりをあげ渦を巻いている。周囲は花崗岩のつるつるスラブだ。記録では巻きしか見当たらいのだけれど。しかしウルトラ沢屋o谷さんは突破する気満々だ。お前は巻き屋かと言い放ち足取り軽く滝へと向かって行った。
自分達が巻きおえると軽々と泳ぎを駆使して突破していた。
透き通ったエメラルドグリーンの水面をしばらく歩くと露滝となる。
露滝は高さはさほどないが深く大きい釜を持ち、底の深さの判断がつかない。落ち口からの水量も勢いがよく水線突破はもちろん、泳いで取り付くのも釜の深さがわからず不気味だ。右岸の斜めがかったテラスをラインとし、突破しようとo谷さんが取り付くもフェルトのフリクションが悪く滑って上がれない。o本さんがすかさず行く。空身で泳ぐも流れに負ける。なんとか這い上がり際どいテラスをトラバースし、支点を何箇所かとって、見事突破。下流でo谷さんがハーケンで支点構築、fixして後続につなげる。
時刻は四時頃、テン場に最適な広い場所をみつけ、幕営。天気も良く寒くもなく焚火もいい感じで最高の雰囲気。酒は翌日の分まで手をつけてしまうほど。お決まりのチャーハンを作る、o本さんは五人分のチャーハン作りを任せれ、黙々と炒め酔いも冷めてしまったらしい。
h子さんの手際良い美味しい料理に皆ご満悦。o谷さんはいつもよりも酔っ払っていたし、nさんもたがじょに溶け込んで終始笑顔だった。見上げれば満天の星。気持ち良く眠りについた。
2日目、今日が出谷川の核心、中俣の遡行となる。七時出発。
へつり、泳ぎ、直登の連続で遡行をしていく。いつもの様にo谷さんに愛のムチを受けながら突破していく。
s字峡に踏み入れる。この付近は雪渓で埋まっている場合が多く記録をみても大高巻きしているのが多い。20年前遡行したo谷さんとnさんも大高巻きだったという。今年は雪渓もなく有り難い事にこのs字峡を通過できる。前半は自分のできる限りで突破したが、s字峡からはo谷さんの本領発揮となる。こっからの為に体力を温存していたとのこと。落ち口付近にある大きい岩が邪魔をする手がかりもないような7m滝。水の勢いがあり這い上がっても手足をとられそうなその流れに手のひらに体重をかけるようにしてはいあがり突破。s字峡最後に垂直の滝が現れる。高さが6〜7mくらいか。o谷さんはこれらを直登すれば中俣を完登したことになる。やる気オーラが出ている。静かに滝に取り付いた。とても還暦を迎える人とは思えないくらいのギラギラさを感じた。水線から外れて左岸の立った岩壁を登る。自家製のハーケンを何度か打ち込む。効いてるか微妙なためこれまた自家製ナッツ(六角ボルトに穴をあけてワイヤーを通したもの)をセットし補強とした。いとも簡単に直登しs字峡突破。後続にザイルを出した。
次は連瀑帯。
下から見る上流に突き上げる連瀑帯は迫力があり遡行する人の気を引き締めさせる。一体どれくらいの高さの滝があり、何個滝があるのか。周囲が切り立ち岩肌を露出した山容に標高差200mくらいあるだろうか、白い糸を垂らした様な連瀑帯は圧巻だ。
意外に連爆帯は下流から見るより急なものもなく登れるのが多くホッとした。
次第に水が細くなり源頭を感じさせ、周囲が草原となる。ついさっきまでの荒々しさから一変、穏やかな雰囲気に包まれる。
いよいよフィナーレ。狐穴小屋が姿をみせた。
自分が突っ込む時いつもザイルで確保してくれたo本さん、遡行だけでも大変なのに皆の写真を何枚も撮ってくれたh子さん、自分の弱い部分をいつもフォローしてくれるnさん、そしているだけで安心して遡行できるリーダーo谷さん、このメンバーで無事遡行を終える事ができて良かった。小屋に入ると宴会も早々と9時過ぎに就寝。
翌朝7時に小屋出発、14時半に日暮沢小屋に着く。長い登山道歩きは気温も高く、延々と歩き脚に堪えた。迎えに来てくれたsさんの有難いこと。あんなに美味いと思ったコーラは久しぶりだった。ありがとうございました。
帰りは皆で温泉に入り3日間の汗を流した。
今回でo谷さんは沢登りを引退すると何度も言った。去年も何かと似たような事言っていたし、またいつもの事だろうと思って聞いていた。
ただ、いつもオレの頭を叩く愛のムチや口の悪いお叱りの言葉を聞けなくなるのはやはり寂しい。たがじょで鬼教官と呼ばれて、キツく厳しいのは人の命を守る事だと分かっているし、去年から沢登りを始めて好きになれたのはo谷さんのおかげだ。それに厳しい中にも優しさも知っている。いつもは厳しくても疲れてると思えば軽いとこでもザイルをだす気配り。個人的な事を言えば自分が身体を壊して山から遠ざかりかけて苦し紛れに頼って行った時。
白神のみょうしざき沢まで直登し青いブナ林を歩いてまわり、八甲田の湿原で透き通る水に感動し、酸ヶ湯の源泉を見に出かけ、山麓のデッカイ犬を一緒に見に行った。
あんなに沢では鬼でせっかちで口が悪いのに、あの時は何も言わずただただ黙って5日間連れ歩いて面倒みて頂いた。あの時間は自分が元気になれるキッカケになった。本当に感謝しかない。
還暦を迎えこれから徐々に引っ込もうとしてるのならばそれは体力的なものがあるからしょうがないでしょう。
ただもし身体がどうしようもなく衰えてしまっても沢登りに行きたくなったら、その時はオレが連れて行けるよう頑張ります。それくらいになるまで時間はかかる。オレですから。
ですので最低70歳過ぎても沢登りでなくても沢歩きは続けていてくださいよ。
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