昨年、仙丈ヶ岳に登ったとき、相棒が「ソーメン流しの滝、登りたい」と何度も言っていた。聞くと、フル装備で沢から仙丈ヶ岳を登り詰めるとのこと。そんなの自分には無理だと断っていた。フル装備でアイスだなんて。。。絶対無理。
でも、今年はカレンダーの並びがよく、あんまり休みが取れない相棒が休めたことと南アルプスは天気も安定していたこともあって、岳沢に行くことになってしまった。
ガイド本によると、三峰川支流岳沢は出合から仙丈ヶ岳の南の大仙丈ヶ岳まで高度差1100mを一気に突き上げる豪快な沢。国内では屈指のスケールのビッグルートの一つ。この沢はソーメン流しの滝をはじめ大小様々な氷瀑が短い間隔のなかに現れ、特にF2~F4、F6~F8は連爆帯となり、それぞれ数ピッチの登攀を楽しめるとのこと。
【1.3】晴れ
杉島ゲートEL925 7:25-丸山谷出合-南沢二俣10:35~11:00-営林小屋跡EL1577 12:27-岳沢越-テン場EL2065 16:50
戸台河原口に車をデポし、タクシーで三峰川林道杉島ゲートへと向かう。ゲートを越えて林道をひたすら歩く。沢に向かうので下りである。だんだんとアスファルトから落ち葉が敷き詰められた道へと変わり、堰堤をいくつも超えて南沢二俣へ。巻き道を通って営林小屋跡を通り過ぎ岳沢に下りるが、どんどん登るにつれて凍っていて大変だった。またガラガラのガレで、ここをみんな歩いているのか疑問に思った。あとの祭りだが、下山するときふっと脇を見たら、巻き道の入り口にすすけたピンクテープがあった。ここから巻けば行きもこんなに大変じゃなかっただろうし時間もかからなかったんだなあと、本当に後から思った。が、その時は必死で鞍部を目指してガレ沢を登り詰めた。
予想よりも時間がかかり、岳沢出合のテン場まで行けなかったので、鞍部を乗越してすぐの樹林帯に泊まることにした。この時から、もういろいろなことが狂い始めていたのかもしれない。
【1.4】晴れ
テン場 8:30-岳沢出合9:20-F1 EL2130 11:20-F5EL2365 -テン場 18:00
樹林帯にはピンクテープがあり、辿って下りて行くと三峰川本流へ。そして少し下ると岳沢出合。本当はここがテン場の予定だった。水も取れるし申し分ない。
沢を詰めていくとF1が現れた。
◆F1 20m
ガイド本に書いている高さより随分高く感じた。ここで、荷揚げの練習を兼ねて、相棒空身リード→ザック荷揚げ→自分ザックを背負ってフォローというふうに登ってみる。時間はかかるのもの、難しい滝はこれがいいのではないかということになる。リードも大変だが、フル装備を背負ってのクライミングはフォローでも大変で、予想通りだった。
◆F2 10m
傾斜緩い。
◆F3 50m
幅の広い滝。右より巻いて左上して登った。
◆F4 30m
10mほど垂直となっていて難しそう。相棒が3ピン目のスクリューを打とうとしている時、滑落。グランドフォールは免れたが、足を捻挫してしまう。3ピン目を打ちに自分が行くが、打った後その垂直の氷壁を登ることができず、下りてくる。相棒、痛みをおしてセルフを取りながら登って行き、時間がかかったが滝上まで行った。
◆F5 20m
記憶なし。
F5の上にテント場適地があるとのことで、そこまで頑張った。
とりあえず、湿布とテーピングをして就寝。明日のことは明日考えることにする。
【1.5】雪のち晴れ
F5上部テン場7:10 -F67:18 -F8終了14:08 -尾根EL2540(敗退決定) 15:18 -懸垂下降F8 16:30-F1-岳沢出合テン場 4:15
とても痛そうだが、行くというので行くことにする。何度も反省するが、ここで敗退しておけばよかった。怪我をしたら敗退する、でもそうできなかった。自分も行ってみたかったから。
F6からまた連爆帯なので、次々と滝が現れる。今日もセルフを取りながら相棒リード。自分がリードできなくて本当に申し訳ない。時間がかかるも、いよいよF8のソーメン流しの滝へ。
◆F6 60m
◆F7 2段 15m+15m
◆F8 ソーメン流しの滝 3段 60m+15m+30m
憧れのソーメン流しの滝を目の前にして、相棒のテンションが上がる。1段目は傾斜は緩いが長い。岩だとたいしたことのない傾斜だが、アイスだと見た目よりも難しく感じながら登った。
3段目は垂直で核心とのこと。時間はかかったが、セルフを取りながら確実に登った。
あー。これで終わった-と思ったら、まだF9(25m)があった。そして、けっこう遠い。。。さすが高いところにあるだけあって、ブルーアイスになっていて遠目でもきれいだなあと思った。
ここで、ふと我に返る。F9登って尾根をあと400m登り詰めて、仙丈ヶ岳に行って、テント張れる樹林帯まで下りれるのか。。。絶対無理。
とりあえず、F9登らずに尾根に上がってみるものの時間だけが過ぎ、無駄な抵抗だった。
潔く敗退しようと決める。下りるのなら、岳沢出合まで行かないと、明日、ゲートまでは戻れない。夜通し懸垂下降することを決める。
新月のため月明かりがなく、ヘッテンの明かりだけを頼りに、アイススクリューを残置したり、岩や立木を支点にしたりして、慎重に懸垂、懸垂、懸垂。焦らず落ち着いて行動するよう心がけた。
気温が高かったのか、落氷がごろごろと転がっていて、登るときとは沢の形相が変わっていた。滝もひたひたと水が表面を流れ、濡れたロープは凍ってしなやかさを失い、まるで針金のようだった。懸垂するたびに、ATCがやすりのようにロープについた霜をそぎ落としていった。F1は滝つぼが開いてしまっていて、水に落ちないように振り子のようにしながら着地するなど大変だった。
相棒は痛い足をかばいながらで、本当に大変そうだった。16:30から朝の4:15まで、夜通し懸垂し続け、やっと出合に着いた。相棒、よく頑張った。
1時間ほど仮眠し、朝食を摂り、6:45にはまた出発した。
【1.6】晴れ
岳沢出合 6:45-岳沢越 8:50-営林小屋跡-南沢二俣-丸山谷出合-杉島ゲート20:30
疲れているが、今日1日でゲートまで行かなくては。この時は、大丈夫だろうと思っていた。
岳沢越えの登りは疲れた体にこたえた。そのあとの下りは凍ってガラガラのガレ場。下りも大変で時間がかかった。まともに下るのは怖いので、ここでもロープを出し、懸垂しながら下りた。1日目の記録でも書いたとおり、樹林帯に巻き道があるらしく、そこを通るとらくだったようだ。
巻き道に入ってからは少し気が楽になるが、今日の最終の新幹線には間に合わないことがわかると、一気に疲れがどっと出てきた。
そして、南沢二俣を過ぎると陽が落ちた。今日もヘッテンを点けての林道歩き。それも登り。。。いろいろな人の顔が浮かび、無事帰ってこれたことに安堵しながら歩いた。とてもとても長い林道だった。そして長い長い1日だった。相棒、本当にありがとう。足痛いのに、よく頑張った。
実力以上のルートに挑戦し、見事に敗退。もう少しで遭難するところだったなと反省ばかりである。「もう年なんだはんで、危険なことやめなが。」と、きっとO谷さんにまた言われてしまうだろう。
でも、もう少し大好きなアルプスの冬山やりたい。自分の力量に合ったルートに行くので、行かせてください。
反省点もたくさんあるが、経験できたことはプラスになるはずだから。そう信じて、これからも頑張りたい。
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