盆休みはOさんが心残りだったようなので、宿題を片付けることにする。
盆休みの計画では、剱尾根ファーストだったので、マイナーピークへは真砂沢ロッジBC、日帰り装備で周回することにしていた。 でも、今回はフル装備で八ツ峰の5.6のコルまで行き、熊の岩で泊まる計画に変更とのこと。自分的には軽荷で周回でも十分だと思ったのだが、Oさんがそうしたいらしい。どこまでも貪欲。
名前に「マイナー」とつくだけに、資料や情報も乏しかったが、長いだけでそんなに難しいスラブではないみたいだし、なんとかなるだろうと安易な気持ちでいた。
【9月14日】 快晴
室堂(9:30)-真砂沢ロッジ着(14:00-三ノ沢偵察(14:30-真砂沢ロッジ泊(17:00)
1ヶ月ぶりの再会。 9月半ばだというのに、お盆の時のようにまだ暑さが続いていた。いつも八ツ峰だと熊の岩泊で剱沢から長次郎谷を登り返すが、今回は剱沢を下りればいいだけなので、気が楽だった。真砂沢には初めて泊まる。水が豊富だし、人も少ないし、よいテン場だった。 0さん早速情報を仕入れ、「マイナー」なルートなのに、なんともう1パーティ入るとのことでびっくりしていた。やっぱりそんなにマイナーなルートなんだなと、いや~な予感がした。 早く着いたので、三ノ沢の偵察に行く。大きな雪渓が残っていた。滝上の草付きをトラバースしなければならず、明日は暗い中での行動なので、ルートを見定めた。灌木が無い草付きトラバースは空身でもけっこう大変だった。 夜は星も見えた。明日に備え、20時に就寝。
【9月15日】 快晴、雲海
真砂沢ロッジ(3:55)-三ノ沢ーマイナーピーク東面スラブ取付(6:15)登攀開始(6:30)-スラブ終了(10:05)-八ツ峰縦走-1峰(18:00)-1峰過ぎのピークでビバーク(18:30)
ヘッテン点してスタート。もう1パーティ(2人)は、たぶん30分~1時間くらい前に出発したようだった。滝上の草付きをトラバースしている明かりが見えた。 昨日の偵察後、そのパーティからいただいた情報では、滝上の草付きにはちゃんと支点が数個あったそうだ。Oさん、探してリードするもなかなか見つけられず、結局半分ほど行ってから、やっと1個見つけたみたいだった。 昨日のルートよりもらくに行けたので、結果オーライだった。
そのまま三ノ沢を詰めていったら、東面スラブの取付きで先行パーティに追いついた。クライミングシューズを履かずに、そのままアプローチシューズで登る。斜度もきつくなく、結局最後までクライミングシューズを履くことはなかった。アプローチシューズで登れるくらいなので、核心は4級と書いていたがたぶん3級くらいだと思った。(ランナウトしたので、本当は4級レベルのところがあったのかもしれないが。) でも、まあスケールの大きなスラブだったし、岩も硬くてフリクションも利いたので、快適で気持ちよかった。ここまでは。。。
ところが、困難はここから始まった。メインのスラブよりも厳しかったのが、八ツ峰縦走の藪こぎ地獄。 八ツ峰下半を縦走する場合は長次郎谷からの1,2峰間ルンゼから登る。そこからの稜線は藪が無く快適なのだそうだ。 自分たちはその反対側の三ノ沢から。加えて、1,2峰間ルンゼまでは人が登っていない稜線なので踏み跡が全く無しの急斜面の藪こぎが永遠と続いた。 日帰り装備の先行パーティは遙かかなたに見える。自分たちはフル装備なので、ハイマツ、シャクナゲの丈夫な藪に大きなザック、ストックが引っかかり、体が上がらない。進まない。藪こぎぼっか訓練しに、わざわざアルプスまで来たんじゃない!と怒りを藪にぶつけるも、跳ね返される。男2人に追いつけなくて、また足手まといになる。黒部横断に次ぐ藪こぎ地獄。。。辛い。。。
今日の予定は、5.6峰のコルまで登り、熊の岩泊だったのに、ぜんぜん進まない。しかも1峰までの間にピークが何個もあり、「これ1峰?」と何度尋ねたことか。。。「違う。まだまだ1峰じゃない。」という返事にがっくりして、また急斜面の藪こぎ。左右切れ落ちている稜線なのに、地面に足が着かないほどの密集した藪。重なっている枝を踏み、必死でハイマツの枝を掴み、不安定な体勢でバランスを取りながら進んだ。まるで綱渡りをしているサーカスのピエロみたいだった。 唯一心が安らいだのは、後立山の稜線から流れるように落ちてくる雲海だった。とても見事でナイヤガラの滝のようで感動だった。
登っても登っても、藪、藪、藪。1峰手前の岩壁ではロープを出してクライミングシューズを履いて、登った。(なぜかスラブでは履かなかったのに、ここでシューズ登場)
1峰に着いたのはもう暗くなり始めていた。結局、5.6峰のコルどころか、1,2峰間ルンゼへも辿りつけずに、手前のピークでビバーク決定。テントⅠ張りどうにかいけた。 残りの水も少ないので、レトルトのおかずと、それを温めたお湯で作った1つのアルファ米を3人で分けて食べた。明日の行動用(3人分)に700mlほどの飲み水を残した。
今夜も星空がきれいだった。遠くに後立山の小屋の明かり、剱沢キャンプ場の明かり、剱の山頂にもヘッテンの明かり(たぶん写真家だと思われる。)三ノ窓にも明かりが見えた。向こう側から、私達の明かりはどんなふうに映っただろうか。 でも、あと少しいけば、1.2峰間ルンゼなので、懸垂して長次郎谷に下りれる。ビバークといっても、それほど深刻ではなかった。これもまたいい経験、思い出になると話しながら、眠りについた。
【9月16日】 晴れ後曇り後小雨
1峰過ぎのピーク(5:10)-1.2峰間ルンゼ下降(5:30)-長次郎谷出合(7:30)-剱沢ー室堂(13:00)
朝日が上がり始める頃、また藪こぎ開始。結局、1.2峰間ルンゼには、テントが張れるスペースはなく、あそこでビバークしておいてよかった。懸垂して、あとはひたすら下った。 長次郎谷出合まできて、やっとわき水に出会えて、喉を潤した。
ゆっくりと室堂へ。天気が下降気味で、雨もぽつぽつ降り出していた。観光客が少なかったので、遊歩道も歩きやすかった。 3人の感想。もう絶対マイナーピーク東面スラブには行かない。行くんだったら日帰り装備で。人気ルートには人気ルートの、そしてマイナールートにはマイナールートの理由(わけ)が確かにあるのだ。 Oさん、長年、マイナーピークに登りたいと思ってはいたものの、誰も賛成してくれる人がいなかったとか。そりゃそうだよね。これじゃあ、行きたくないよなあ。
「今度は、藪こぎのない、すっきりしとしたクライミングのできるかっこいいルートをお願いします!」そうOさんにお願いしたら、苦笑いされた。
温泉に入ったら、体は藪が刺さって青タンだらけ。新調したザックもTシャツも松ヤニだらけ。藪こぎ特訓は青森の沢で十分だ。何年経っても藪こぎだけは好きになれない。
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