今年のGWは好天が長続きしない予報だったので、安全パイで明神東稜にすることにした。
明神岳は穂高山塊の一部で、上高地から穂高に行く途中に見える。一般登山道はないのでどうやっていくのだろうと思っていたが、東稜ルートを知ってからはいつか行ってみたいと思っていた。
今年は少雪なので、ブッシュが見えて大変なことも予想されるが、残雪期で雪が締まっていれば1泊2日で抜けられるようだ。もう少し攻めの山行をしたい気持ちもあったが、お天気には勝てない。でも、どうせならということで、明神主峰からⅤ峰まで縦走することにした。
【5月1日】 雨のち曇り
上高地-明神-ひょうたん池のコルEL2305-第一階段-小ピークEL2700泊
上高地は雨。ガスがかかり、穂高の上部は見えなかった。テンション上がらない。。。
上高地から明神まで来て、明神橋を渡る。ここから明神岳や前穂が見えるはずだが、ガスっていて見えない。信州大学山岳科学総合研究所の横を通り過ぎ、沢を渡ると赤布があり、山へ取り付く。途中まで登山道のような立派な踏み跡があり、びっくりする。
下宮川谷を渡るころには雨も上がってきた。宮川尾根のコルが見えてきたところで、下山する2パーティと会う。昨日は、悪天のため渋滞でバットレス基部まで行けず、ひょうたん池のコルまで引き返して泊まったこと、そして夜は雪が20センチほど積もり、強風で大変だったことなど、情報を教えてくれた。きっと、明日は仕事があるので敗退しなければいけないのだろう。残念そうだった。
宮川尾根のコルを越えると、上宮川と長七沢がある大きく開けた斜面を横断する。ちょうど明神主峰からⅤ峰の岩場やリッジ、ルンゼの下を通るので、落石や雪崩れに注意と資料には書かれているが、とても開けているのでそれほど神経質にはならなかった。ただ雪が少ないので、アイゼンでガレ場を歩くのは歩きにくかった。残雪だとザクザクとスムーズだろうと思う。
ひょうたん池のコルに登り返す手前でも敗退する2パーティと会う。1パーティはバッドレス基部まで行ったものの引き返してきたとのことで、登るより引き返す方(下る方)が大変だったろうなと思った。
ひょうたん池のコルは広くて快適そうだった。先行2パーティがテントを張っていた。相棒は今日は予報より天気も悪いしここで泊まろうと提案するが、まだ13時前だし明日のことを考えるとバッドレス基部前のらくだのコルまで行きたいと思い、進むことにする。
ひょうたん池からいよいよ東稜の登りにかかる。登りだしてすぐに第一階段という急な草付きから岩場の登りになる。アンザイレンで登るが、残雪が少なく灌木が出ているため、ロープがスムーズに流れず面倒くさい。雪で覆われているともっとスムーズなのにと思いながら登る。思ったより時間がかかってしまう。
その後は、雪稜、雪壁とどんどん変化していく。灌木があるのでランナーは取りやすい。
稜線に出てからは、コンテで登る。振り返ると、梓川の渓谷が広がっていて、初めて見る景色に少しテンションが上がる。
尾根が細くなり少し平らなところに、テント跡があった。まだ、らくだのコルより少し手前だが、もう17時になろうとしていたので、今日はここで泊まることにした。両端が切れているのでテントを張るとトイレなど行き来するのに注意が必要だが、前穂の展望がよく、とても気に入った。
暗くなると、梓川沿いに明かりが見えた。徳澤や明神、上高地の明かりだろう。星もたくさん見えていたので、明日は天気が回復するだろうと期待を込めて就寝したが、夜中は強風でテントが揺れて眠れなかった。
【5月2日】曇りのち晴れ
EL 2700テン場-バッドレス-明神岳主峰-Ⅱ・Ⅲ峰-前明神沢-岳沢
テントから顔を出すと、前穂がきれいだ。撤収していると、まだ6時前だというのに、ヘリコプターが2機も飛んでいる。1機は私たちを確認したかのようにゆっくりと遠ざかっていった。もう1機は奥穂の辺りを飛んでいる。なにかあったんだなと思う。
小ピークからコンテで登り出す。30分も行くと、らくだのコルに着いた。先行パーティ1がバッドレス基部に取り付いていた。
1P目… 左から巻いて登ると、バッドレスに着く。バッドレスと聞くだけで、なんか大変そうなイメージ。登れるだろうかと弱気になる。フェースは無理そうだが、右側の凹角ならいけるんじゃないかと思う。
2P目… バッドレス一枚岩のフェース。雪が少ないので、右側の凹角に取り付くまでも難儀する。凹角沿いは細い溝にアイゼンの前爪を引っかけて登る。途中で溝が無くなり、つるつる。ずり落ちる。クライミングシューズなら、らくなのに。。。右へトラバースし、なんとか乗越す。資料にはⅢ~Ⅳ-とあった。
3P目… 長い雪壁。スタカットで登る。
3P目が終わり、左側をトラバースしながら登って行くと、明神岳主峰に到着。標識くらいあるだろうと思ったが、なんにもなかった。。。前穂・奥穂・西穂の稜線が目の前に迫り、迫力があった。
先行パーティは、Ⅴ峰縦走を考えていたが疲れたので奥明神沢から岳沢へ下りると言う。私はもちろん縦走するつもりでいたが、相棒はⅡ峰を見て、奥明神沢から下りようと言い出す。なんとか説得し、取り付きまでガレ場を下る。ここからはトレースはない。
主峰とⅡ峰のコルは1,2張りならテントが張れそうなくらいの広さだった。フェースは到底無理だが、左の凹角ならなんとか行けるんじゃないかということになり、縦走することにする。希望が叶い、ほっとする。
ビレイをしていると、奥穂とジャンダルムの間でヘリがホバリングをしていて、人が引き上げられるのが見えた。やっぱりなにかあったんだと思い、気を引き締める。 Ⅱ峰は、見た目よりも難しくなく(あとで資料を見たらⅢと書いてあった)、3Pで登れた。
Ⅲ峰はいったん取り付いたが、大岩でも浮いていて危ないので巻くことにした。後続パーティも同様だった。
資料では、Ⅲ峰からは易しい稜線歩きとあったが、Ⅳ峰への下りはロープを出したくなるくらい急だった。
Ⅲ・Ⅳ峰のコルまで来た。Ⅳ峰、Ⅴ峰を見て、相棒はもう行かなくてもいい(行くまでも無い)と言う。自分もそう思えたので、Ⅲ・Ⅳのコルから前明神沢の枝沢を下りることにする。本来ならⅣ・Ⅴのコルから前明神沢を下りるのが普通らしいが、途中で前明神沢本流に合流するので大丈夫だろうと思い、下る。
高低差300M弱をバックステップで延々下る。急なので足が疲れてくる。EL2440辺りから沢が狭まり、滝が現れてきた。2個滝を懸垂し、草付きをトラバースする。 なんだか青森で沢をやっている気分になり、楽しくなってくる。今年は雪解けも早いので、白神の沢ももうスタートできるんじゃないかなと思いながら、下る。
EL2205でやっと前明神沢本流と合流し、ほっとする。
本流を下ったパーティの話では、滝が1個あったが懸垂しなくても高巻きできたとのことだった。
EL1730で、登山道と合流。このまま上高地に下山するのはもったいないので、疲れた体に鞭打って、岳沢へ登り返すことにした。岳沢へは日没と同時に到着。貴重な晴れの一日だったので、頑張った。
【5月3日】曇り
岳沢-上高地
今日からまた天気は下り坂とのことで、ほとんどのテントが撤収していた。それでも、GW後半なので登ってくるパーティもそれなりにいた。
予報よりは天気がいいので、奥穂南稜やコブ尾根の取り付きを偵察し、ルートを展望して、上高地へと下山した。
かっぱ橋から見ると、右手前に明神Ⅱ峰がちょこんと、とんがって見えた。天気が芳しくない中でも、無事に行って帰ってくることができたことに感謝し、上高地をあとにした。
下山したら、穂高周辺では今までにないくらい遭難が相次いだことを知った。改めて、天気や山の状況を読むことの大切さと、自分の技術・体力を過信せず、謙虚に山と向き合わなければいけないと思った。
いいねする